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第6章 悠人争奪戦 1/6

last update Dernière mise à jour: 2025-04-16 18:00:33

 学生時代から、悠人〈ゆうと〉は団体行動が嫌いだった。

 特に数日間「旅行」という名目で他人と行動することは、これ以上にない苦痛だった。

 * * *

 高校2年の冬。修学旅行当日。

 彼は布団にもぐったまま、出ようとしなかった。

「悪魔さえ来なければ、行かずに済むのだが……」

 だが、その願いは無残に打ち砕かれた。

 部屋の扉が勢いよく開かれ、悪魔はやってきた。

「悠人、おっはよー!」

 早朝5時半にも関わらず元気全開の声。小百合〈さゆり〉だった。

 声と同時に悠人の布団がはがされる。

「ぬおっ!」

「遅刻遅刻! 悠人、修学旅行遅刻しちゃうよ!」

「ああ遅刻だな。だから俺のことは放っておいて、お前だけでも行ってくれ。青春の1ページを無駄にするんじゃないぞ」

「訳の分からんことを言ってる場合じゃない!」

 そう言って小百合が、悠人が離さずくるまっている毛布を引き剥がそうとする。

「ええい、放っておいてくれと言ってるだろうが! 俺は400℃の熱で動けんのだ!」

「なら雪で冷やさないとねー」

「くっ……」

 この頃の悠人は小百合が苦手だった。

 自分のことを、ある意味両親よりよく知っている存在。誰よりも一番共に過ごした他人。それは彼にとって、弱点を全て知られているということでもあった。

 そのことに嫌な感情を持っていた訳ではないが、こういう時は別だった。今日起こしにきたのも、悠人がさぼるのを見越しての行動だった。

「はいはい、悠人が行きたくないのは分かってます。でもね、はいそうですかと保護者が言う訳ないでしょ。高校最後の一大イベントなんだから、早く起きて用意しないと」

「だーかーらー」

 悠人が無駄な抵抗を続ける。

「期間限定、場所限定のスポーツなんぞに俺は興味がない」

「いいじゃないスキー。こんなことでもなかったら

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